『北斎の摺り師になってみたかった』タイラ コウ 木版画展

 

見よう見まねで木版画をはじめて、30年の時が流れた、、、木版画を始める以前、浮世絵は全て肉筆だと思っていた。それは、肉筆ばかりでなく、多色摺り木版画であることを知り、その緻密な彫りや美しいグラデーションの摺りに魅了されていった。

 

浮世絵の時代「摺り師は彫師の下職らしい位置であった・・」と、ものの本で読んだことがあった。そのことは、わたしには驚きで「彫は変わらないけど、摺り一つで作品は良くも悪くもなるだろう?」と、そんな想いをもった。

 

この度の展覧会では、北斎の代表作、浮世絵の代表作といってもいい富嶽三十六景から「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴」を取り上げ、その彫りを変えることなく、北斎の摺り師になって作品を展開してみた。

 

「北斎さん、こんなのどう?」と言ってみたかった。

タイラ コウ

神奈川沖浪裏表 浪返し

サイズ:40×92㎝

技法:片ぼかし、鏡摺り

制作年:2015

神奈川沖浪裏表 引き浪

サイズ:35×81㎝

技法:片ぼかし、鏡摺り

制作年:2015


神奈川沖浪表

サイズ:31× 44 cm

技法:片ぼかし、正面摺り

制作年:2015

神奈川沖 快晴

サイズ:35× 50 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020

神奈川沖 黄金のとき

サイズ:35× 50 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020


雪の神奈川沖

サイズ:35× 50 cm

 技法:片ぼかし

制作年:2020

 

雪の浪裏

サイズ:35× 50 cm

技法:片ぼかし、板ぼかし

制作年:2020


キラに赤富士

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020

凱風の朝

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020

凱風快晴 紅葉

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020

凱風快晴 キラの雲

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020

藍の富士

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし

制作年:2015

凱風快晴 桜梅桃李

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし

制作年:2015

凱風快晴 黄金のとき

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020

凱風の夕 あかね雲

サイズ:20 × 29 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020


北斎の空

サイズ:70 × 72 cm

技法:片ぼかし、空摺り

制作年:2019

北斎の空 暮色

サイズ:70 × 72 cm

技法:片ぼかし、空摺り

制作年:2019

北斎の空 暮色

サイズ:70 × 72 cm

技法:片ぼかし、空摺り

制作年:2019


墨の富士

サイズ:72 × 44 cm

技法:片ぼかし

制作年:2015

雪の富士

サイズ:72 × 44 cm

技法:片ぼかし

制作年:2019

雨開の富士

サイズ:72 × 44 cm

技法:片ぼかし、正面摺り

制作年:2015

墨の逆富士

サイズ:72 × 44 cm

技法:片ぼかし、鏡摺り

制作年:2019


日本

サイズ:5× 52 cm

技法:片ぼかし、キラ摺り

制作年:2020

茜のとき

サイズ:55 × 55 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020

藍のとき

サイズ:54 × 54 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020

黄金のとき

サイズ:55 × 55 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020

墨のとき

サイズ:54 × 54 cm

技法:片ぼかし

制作年:2020


白いアンスリウム

サイズ:12 × 40㎝

技法:きめ出し

制作年:2011

せんこう花火

サイズ:6×7㎝

技法:あてなしぼかし、つけ合わせぼかし 制作年:2011

コイノボリ

サイズ:7×7㎝

技法:片ぼかし、裏手彩

制作年:1999



バレンの綱は、白竹(カシロタケ)の皮を撚って綱にしたものが使われます。その綱の撚り方は6種類ほどあり、望む効果の目的によって使い分けます。繊細な輪郭線の版(主版など)には効かないバレン、広い面積の版をべた摺りするときは効果のあるバレンを使い分けます。バレンを包む皮は、主に真竹の皮が使われます。

運び筆 は、絵具を版面に運ぶ筆です。また、絵具を溶いたり、のりを溶いたりするのにも使われるので、溶き棒とも呼ばれます。バレンは使っているうちに包んでいる竹皮が破れてしまいます。その破れた竹皮を細かく裂いて繊維状にし、それを束ねて作られました。

刷り込み刷毛、手刷毛、丸刷毛 は、版面で絵具とのりを混ぜる道具

左から丸刷毛、手刷毛、刷り込み刷毛です。丸刷毛、手刷毛は、馬毛が、刷り込み刷毛は鹿毛が使われています。さまざまな大きさがあり、版面の大きさや目的に応じて使い分けられます。馬毛の毛先は、鮫皮(コロザメ)でおろされ割られ使用されます。

 

彫りの道具 左から、版木刀、駒透き、間透き、見当のみ、丸のみ、上が槌となります。見当のみ以外それぞれにサイズが数種類あり適宜に使います。まずは、主版を切り回しという作業からはいります。版を版木刀を使って、図の中ほどから刀を入れ、版を回しながら切っていきます。版を切ったら間透き、駒透き、丸のみを使って、不要な部分をさらいます。見当のみは見当をつけたり、見当がずれた時に見当を合わせるための杭木を打ったりするときに使います。

神奈川沖浪裏の版木 摺りの手順は色版の大小、色の濃淡によって順番が決められます。まず、主版から始まって、色の薄い順、版面の小さいものから摺られます。また、版は摺り続けると摩耗が早いので、一日200枚摺っては数日版を休ませ、また摺ることを繰り返して摺り上げられました。版木の下方、右にカギ見当、右に引き付け見当が彫られ、ここに和紙をセットすることで、紙の同じところに色を摺り取れることになります。この見当の位置が違うと絵がずれて摺り取られてしまいます。そのことから「見当違い」の語源となりました。

鏡摺り あらかじめラミネートされた(漉き合わせ)和紙を使って、色の付き具合を見ながら数回摺って仕上げます。12匁以上の厚みのある和紙は大抵、漉き合わせされています。浮世絵の時代、和紙は「政」か「奉書」を最上としました。奉書は越前産を上物とし、政は奉書の一種で浮世絵の紙の90パーセントは政であると書された書物もあり、その産地は伊予国新居郡とあります。

板ぼかし(雪の浪裏より)

近年では、ぼかしの効果を版木(色版のエッジ)をなだらかなスロープになるように、平刀で彫ってその効果を得ます。浮世絵の時代では、色版のエッジを木賊(トクサ)で磨き、次に椋(ムク)の葉で磨いてその効果を得ました。

展示の「雪の浪裏」では、フワッとした雪の表現に板ぼかしが使われています。

あてなしぼかし、つけ合わせぼかし(せんこう花火より)

右の版がつけ合わせぼかしをした版になります。通常は2色の絵具を版面に同時に置き、刷毛を同一方向に動かして2色をぼかします。展示の「せんこう花火」の版では赤、黄、緑の3色を同時に版面に置きぼかしています。

 

左の版が、あてなしぼかしをした版になります。

その色としての色版がなく色摺りをしたものです。

きめ出しの版(白いアンスリウムより)浮世絵では、力士の腕の膨らみなど、ふっくりと浮き出させる摺り方です。和紙が乾いてから版に伏せて肘や踵で強く押して型をつけました。近年ではスプーンの腹などを使ったりします。展示の「白いアンスリウム」では、繊細な彫りのエンボスを出すため、薄い雁皮紙を版に置き、刷毛で叩き、型を付けてその上から和紙をのりで貼るという方法でエンボスの効果を出しています。

正面摺り(雨開の富士より)凱風快晴と同じ版を使っていますが、絵が反転しているのがお分かりでしょうか?近代の木版画では正面摺りは拓摺りのように表を絵として見ます。展示の「雨開の富士」では、和紙の裏から滲む墨が効果的に使われています。浮世絵の時代では、正面摺りまたは、上面、つや摺りとも呼ばれました。光沢を出したい部分の正面からの版を用意して、その上に摺り上げ乾いた絵を置き、バレンで擦ったり、猪牙で擦って光沢を得ました。着物衣装の表現などに見られます。

金銀摺り、キラ摺り 金銀摺りは、金銀にしようとする色版にどうさ液やのりだけを摺る、またはタンポでたたいて版にのせ和紙に付け、次に金銀粉を振りかけて、乾いた後 余分なところに付いた粉を絵刷毛などで取り除きます。キラ摺り(雲母摺り)は、まず、下地に墨や藍鼠を摺るところが金銀摺りとことなるところです。写楽の首絵に黒キラ摺りが多く見られます。また、のりやどうさ液に雲母粉や金銀粉を混ぜて普通に摺ることもあります。

片ぼかし(拭きぼかし)片ぼかしは、版面のぼかしたいところに、濡らした手拭いで水気を与えます。(この時、手拭いで版面を拭くように水を与えるところから拭きぼかしと呼ばれました。)その部分の片方(ぼかす方と反対の位置)に絵具とのりを置き、刷毛をぼかす方向に対して直角の方向に動かしてぼかします。また、絵具を版面に置かず、刷毛の一部分に付けてぼかす方法もあります。浮世絵の上部には、細い片ぼかしが多く見られます。一文字のようにぼかされることから、「一文字ぼかし」と呼ばれます。


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